大判例

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名古屋高等裁判所 昭和27年(ネ)194号 判決

控訴人から訴外マルマサ小林織物株式会社に対する長野地方裁判所諏訪支部昭和二七年(ワ)第一〇号代償金請求事件の執行力ある和解調書正本に基き、昭和二十七年五月十五日右訴外会社工場に於て別紙目録<省略>記載の物件中一、平野式ドビー(十四枚)十五台を除く其余の物件につきなした強制執行は之を許さない。

被控訴人の其余の請求は之を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じ三分し其一は被控訴人の負担とし其余は控訴人の負担とする。

本件につき名古屋地方裁判所が昭和二十七年五月二十七日別紙目録記載の物件に対し為した強制執行停止決定は右目録中一、平野式ドビー(十四枚)十五台の分に対しては之を取消し其余の物件に対しては之を認可する。

前項に限り仮に執行することが出来る。

二、事  実

控訴代理人は原判決を取消す、被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とするとの判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は控訴代理人に於て本件織機は既に相当の年代使用した古物であつて、当初のメーカーの形はなく本件目録中の平野式ドビー及その他の附属品なくしては全く織機としての機能を果し得ない。スクラツプとしてなら格別取引の常識から云うて本件織機の場合は当然本件目録記載の附属品を付加取引さるべきものである。故に昭和二十七年三月二十八日の仮差押の際もその仮差押調書に織機及附属品一式と明記され被控訴人は之を承認して署名捺印しているのである。亦長野地方裁判所諏訪支部に於ても訴外会社代表者小林正美の申立に基き和解が成立したもので、同人は右のことを和解の条件として納得了解の上認めたものである。

斯様な次第で被控訴人の本件主張は明かに右和解の精神を破壊し、控訴人の本件織機の転売を妨害せんとする意図に出たものに外ならない、と述べた外何れも原判決事実摘示と同一であるから茲に之を引用する。

<立証省略>

三、理  由

控訴人が昭和二十七年五月十五日訴外マルマサ小林織物株式会社に対し被控訴人主張の和解調書正本に基き、右訴外会社工場に於て別紙目録記載の物件に対し強制執行を為したことは当事者間に争のないところである。而して成立に争のない甲第一、二号証同第七号証原審並当審に於ける証人小林正美の証言当審証人崎田福松の証言に依り真正に成立したと認める乙第一号証を綜合すると、被控訴人は訴外マルマサ小林織物株式会社の代表取締役小林正美の実父であり且つ自分も右会社の取締役であるが、右会社が昭和二十四年一月十日設立せられた際被控訴人は其所有に係る織機十五台及その運転に必要な別紙目録記載の諸物件を賃料一ケ月金千円毎月二十五日より月末までの間に支払う約束で右会社に賃貸したこと、訴外会社が控訴人に対し七十三万円の約束手形金債務を負担しながら之を履行しなかつたため、控訴人から長野地方裁判所諏訪支部に訴訟を提起されて応訴中昭和二十七年四月十六日当事者間に裁判上の和解を締結することになつたが、其際被控訴人は前記のように訴外会社と密接な関係があつたため自己所有の物件を提供して訴外会社の控訴人に対する債務の弁済に充当することとなり、被控訴人所有に係る「訴外会社工場内に設備してある織機十五台附属品付の所有権」を控訴人に譲渡し、同月三十日までに之が引渡を了することを約束したことを認め得る。而して右和解条項中織機十五台附属品付とは如何なる範囲内容のものを指すか本件係争の別紙目録記載の物件が之に包含されるかどうかが問題となるが、右和解調書の記載は文言が抽象的で簡単なため之を如何に解釈すべきか又斯る和解条項で債務名義として執行力を有するかどうかにつき案ずるに、凡そその強制執行に於て執行し得べき債務名義は具体的に特定した給付義務につき生ずるのであるが、右給付義務の内容は確定判決にあつてはその主文に包含するものに限り、債務名義となり若し主文に表示された給付義務がその因て生ずる理由と相俟つても具体的に特定されていなければ、該給付義務は債務名義として執行力を持つことは出来ない。然るに訴訟上の和解調書の場合にはその給付義務は和解調書の文言に依り定まること勿論であるが、訴訟上の和解は一面訴訟行為であると同時に他面私法上の法律行為の性質を有するから、和解調書は此意思表示を記載したものである。従て和解に依る給付義務の内容は調書の文言の解釈に依て定まるが、文言の解釈に当つてはその文字のみに拘泥することなくその文字と共にその解釈に資すべき他の事情をも参酌し、当事者の真意が表示されたと認めらるるか否かを判定して之を決しなければならない。右の如く判決は裁判所の一方的且権威的意思の発表であるから厳格に解釈すべきであるが、訴訟上の和解は私法上の意思表示たる一面を有するから、一般法律行為の解釈と同様の解釈方法に依り判決のそれの如く厳格に解すべきでない差異があるとするのが相当である。

本件強制執行の債務名義たる和解調書中、債務者たる訴外マルマサ小林織物株式会社の負担すべき給付義務の内容として訴外会社工場内に設備してある織機十五台附属品付所有権の引渡とあるが、右織機の品名種類規格並附属品の品名種類数量等の記載がないから、訴外会社工場内に設備してあるとの表示丈では調書の文言上給付の目的物が特定したものとは認められない。けれども本件和解成立に至る迄の経過等を観ると控訴人は昭和二十七年三月二十八日訴外会社工場内にあつた遠洲式大巾織機六台、野上式大巾織機九台外本訴物件等に対し仮差押を為すと共に長野地方裁判所諏訪支部に右訴外会社を被告として約束手形金七十三万円の請求訴訟を提起し、その第一回口頭弁論期日である同年四月十六日右裁判所に出頭する前、右訴外会社の代表者小林正美が控訴人方に来り示談を申込み、控訴人から訴外会社工場内にあるあの織機を引渡せば示談に応ずるとの申出を為し、その結果右仮差押に係る前記十五台の織機を控訴人に引渡して右七十三万円の手形金債務の代物弁済とする等の条項で和解することを約し、之が和解条項を書面(乙第一号証)に認めた上之を持参して右当事者双方は右諏訪支部法廷に出頭し、係裁判官の面前に右書面を提出して裁判上の和解を申立てたところ、係裁判官は右書面を閲読してから織機十五台とあるが織機には当然附属品がつくものであるが、附属品はつくのかと双方に尋ねたら双方は附属品もつく旨答えたので、同裁判官は自ら右書面に鉛筆書で附属品一切を引渡す旨附加し、其他仮差押解放の条項を当事者の同意の下に削除して本件和解調書が成立したものであること、及右織機の附属品とは通常織機取引上の観念に於ける織機の従物として当然附随する品物であることは原審並当審証人小林正美、当審証人中村春男、同崎田福松(同証言中後記措信しない部分を除く)の各証言成立に争ない甲第七号証、乙第二号証、右証人崎田福松、中村春男の証言により真正に成立したと認められる乙第一号証を綜合することに依り認めることが出来る。前記証人崎田福松は右附属品としてモーターを始め本訴物件全部を包含する趣旨の特約をした旨証言するけれども、右各供述は前掲各証拠に照し措信しない。次に通常織機の取引に於て織機の従物として当然附随する附属品の範囲につき案ずるに、原審鑑定人在間愛民の鑑定の結果当審証人竹尾幸蔵の証言並当裁判所に於て真正に成立したと認める甲第四号証の一乃至五に依ると通常業界に於ける織機取引上の慣習として当事者が特別の意思表示をしない場合に、織機の附属品として織機に附随するものは製織可能の状態を補助するワープ、ビーム、クロース、ローラ、ピツカー等の範囲で別紙目録記載のような物品は附属品として取扱われない、之を附属品中に包含させるには特に約定することを要することが窺われるから、この事実と前記認定のように本件和解調書中に単に織機附属品と記載されたのは、裁判官の注意により織機とのみあつたのを取引上の慣習に従い特に附属品なる文言を附加した事実に徴するときは、当事者の真意が右織機十五台の附属品なる条項中に本訴物件を包含せしめる趣旨を表明しているものと解することは困難である。原審に於ける被告本人訊問の結果当審証人崎田福松、同林貞男の各証言並乙第三号証の二の三の記載中、右認定に反する部分は何れも前記各証拠と対比し採用するを得ない。其他右認定を左右するに足る証拠はない。

依て本訴物件は前記和解調書の織機十五台の附属品付なる条項中の附属品に包含されないものと認むべきである。然しながら訴外会社工場内に設備しある織機十五台の引渡については前掲認定の本件和解調書成立に至る迄の経過に徴すると右織機十五台は訴外会社工場内に現設してあつて、当時仮差押中の遠洲式大巾織機六台、野上式大巾織機九台をその儘の状態で控訴人に引渡すと云う趣旨であることは明かで、当時右各織機にドビーを取付け装置し現に製織に使用し又は使用し得る状態にあつたことは当審証人小林正美、同崎田福松の各証言、当裁判所で真正に成立したと認める甲第四号証の六に依り之を認むるに十分である。而して本件遠洲式及野上式各織機は元来開口装置としてタベツトを装置し平織用として製作されたものであるが、訴外会社は交織をするため更に之に適する開口装置としてドビーを装置し交織物を織つていたことは当審証人小林正美の証言に徴し明かである。従て本件仮差押並和解当時右各織機にはドビーが取付けられ交織用の織機として訴外会社工場内に現設してあつたもので本件和解に於て之をその儘の状態で控訴人に引渡すことを約したものと認められるから、右和解条項にはドビー付なる文言の表示はないけれども、右文言に前記各事情を参酌して考察するときは当事者はドビーをも包含せしめる意思を以て前記織機の引渡を約したものと認めるのが最も当事者の真意に合致するものと思料されるので、右織機十五台の引渡なる文言はドビーの引渡を含めた織機十五台の引渡義務を表示したものと解するのが相当である。尤も通常の取引に於てはタベツトを開口装置とする織機の売買には特約のない限りドビーは附属しないことは当審証人竹尾幸蔵の証言前掲鑑定人在間愛民の鑑定の結果に依り明かであるが、本件の場合は前記認定のような特別の事情により和解が成立したもので通常の売買取引の観念を以て律することは相当でないから、右認定を妨げるものではない。他の被控訴人提出の資料に依るも右認定を左右するに足るものを発見することは出来ない。従て本件和解調書の右織機十五台の引渡なる条項にドビー十五台に対する引渡義務の執行力を有するものと認むべきである。

右の次第で本訴物件中別紙目録記載の一、平野式ドビー(十四枚)十五台は右和解契約に依り控訴人に所有権が移転し且之に対し和解調書に依る執行力があるから、之に対する強制執行の排除を求める被控訴人の請求は失当たるを免れないが爾余の目録記載の物件については右和解契約に依り控訴人に所有権が移転したとは認められないから此等に対する強制執行の排除を求める被控訴人の請求は認容すべきである。仍て右認定と異なりドビー十五台に対する強制執行の排除を認容した原判決は相当でないから該部分を取消し民事訴訟法第三百八十六条に則り、原判決を主文の通り変更し訴訟費用の負担につき同法第八十九条、第九十二条、第九十六条を強制執行停止決定の認可取消並その仮執行の宣言につき同法第五百六十条、第五百四十八条第一、二項を各適用し主文の通り判決する。

(裁判官 杉浦重次 石谷三郎 赤間鎮雄)

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